竪琴の歌(石上玄一郎氏訳)
本日夕刊で、作家の石上玄一郎氏の訃報を知りました。
享年99歳。
氏の小説はほとんど読んでいませんが、私にとっては「エジプトの死者の書 宗教思想の根源を探る」(人文書院)の著者として忘れ難い方です。
この著作がアカデミズムの世界ではどのように評価されているのか知りませんが、私にとっては古代エジプト人の宗教観というものが現代日本人から特別隔絶したものではないのかもしれない、と身近に考えさせられた本でした。
特に、この本に収録されている詩で、古代エジプトで実際に歌われたという「竪琴の歌」の訳文が好きでした。
考古学者が訳すとどうも説教臭く、堅めで宜しくない。
しかし、この石上訳はリズムがあり、音楽があり、なにより時空を感じるせいか、いまでも時折口ずさむこともあり。
現身は消えゆけど ここに消えぬものもあり
いと古き神々はメルに憩う
高貴にして栄光に輝く人々はメルに留まれど
かつて在りし日人々の姿、今はなし
彼らいかになりしや
その昔の賢者は誰そ
イムホテプはたハルデブブなるその言葉
まねびて人々は語る
昔日の館、今いかになりしやと
檣壁は砕け園は朽ちて跡形もなし
あたかも彼ら未だ嘗て在らざりしが如く 彼ら、いかになりしや
彼ら今、何を憂い何を望まんとするや
彼らは果たして安らぎに至りしや 知るひとぞなし
彼らの行きし国に、われらもまた行き着くまでは…
石上氏は太宰治とは旧制弘前高校時代の友人だったという追悼記事に驚きました。
もしかしたら今頃「彼らの行きし国」で久々に旧友と再会をしているのかもしれませんね。
何はともあれ、心からご冥福を祈ります。